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大阪地方裁判所 昭和33年(行)65号 判決 1960年1月26日

原告 平和洋服株式会社

被告 北税務署長

訴訟代理人 平田浩 外四名

主文

被告が、原告の昭和三一年八月一日から同三二年七月三一日までの事業年度分法人税につき、同年一二月二五日原告に対してなした原告の同年度の所得金額を八一三、八六八円とする更正決定のうち、金六七四、〇六八円を超ゆる部分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は、昭和三二年九月三〇日被告に対し、原告の同三一年八月一日から同三二年七月三一日までの事業年度の所得金額を六二四、〇六八円とする確定申告をしたところ、被告は同年一二月二五日右確定申告額を金八一三、八六八円と更正する決定をしたので、原告は同三三年一月二二日被告に対し再調査の請求をなした。右再調査の請求は審査請求とみなされ、同年八月二九日大阪国税局長は、(1)賞与を支給された役員は会社の重要な取締役である、(2)退職金を支給されたという役員は期末にはまだ退職しておらないとの理由を以て、これを棄却する旨の審査決定をなし、原告は即日その旨の通知を受領した。

(二)  右棄却の理由のうち(2)の点は、期末において辞任の登記が未了であつたから、正当であると考えられるが、(1)の理由は次のとおり明らかに不当であるから、この点に関する部分につき本件更正決定は取消さるべきである。

即ち、訴外山尾義幸及び同家村鉄夫はそれぞれ原告会社の取締役として登記されているけれども、それは名目だけのことであつて、実際においてはいずれも普通の従業員である。

従つて、これに対し支給した賞与金合計一三九、八〇〇円は当然損金に算入さるべきものである。被告が右訴外人らを以て会社の重要な役員であると認め、これに対し支給した賞与を益金に算入すべきものとしたのは、名目のみに捉われて事実を無視したもので、固より違法である。

と述べ、

被告の主張に対し、

本件の争点は訴外山尾茂幸及び同家村鉄夫に支給した給与等を損金として計算することが正当であるかどうかの一点に帰着するところ、実質上は会社の使用人でありながら名義上だけ会社の役員となつている者に対する給与等はすべて損金として計算されることは、判例学説上異論のないところである。従つて、被告の主張は、会社役員の権利義務に関する法律の規定を以て、事実を擬制せんとする本末顛倒の議論であつて、失当である。

被告主張の、法律上会社の役員でない者が、相談役等の名目で事実上会社の業務に関与し有力な発言権を有する事例のあることは認めるが、特定の人を実質上の役員と見るか単なる使用人と見るかは、その者が有する地位位、権限の程度に関する問題であり、結局、個々の具体的事案につき各場合に応じてこれを判断しなければならないところ、本件についてこれを見るに、訴外山尾、同家村の両名は全く名義上だけの役員であつて、実質上は役員としての地位又は権限は全く与えられておらず、待遇についても全く同様である。従つて、会社内において一応役員としての地位、権限を有し、又、それ相当の待遇を受けながら、実質的には背後にある実力者の圧力に自主的な活動を制約されているような場合とは全くその性質を異にするのである。

と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告の請求原因事実のうち(一)記載の事実はこれを認めるが、その余の事実は争う。

被告がなした原告主張の更正決定の所得金額は被告において原告会社が損金に計上していた退職金五〇、〇〇〇円及び役員賞与一三九、八〇〇円の損金計上を否認し、これを原告の確定申告所得金額六二四、〇六八円に加算した八一三、八六八円であつて、被告のなした更正決定の更正差額のうち、退職金は仮払金で、これを損金に計上できないことは、原告においてこれを自認しておるところである。

次に、役員賞与は、原告会社取締役山尾義幸に賞与として支払われた九八、二〇〇円と、同じく取締役家村鉄夫に賞与として支払われた四一、六〇〇円との合計額であるが、法人がその役員に対して支払う賞与は、当該事業年度損益計算後の利益金の中からの利益処分たるべきものであるから、これを損金に算入することは許されない。

ところで、原告会社の取締役は、代表取締役三輪義輝と右山尾義幸、家村鉄夫の三名からなつていたが、代表取締役三輪義輝は全く会社業務に従事しておらず、従つて、山尾義幸、家村鉄夫の両取締役において、対内的、対外的に会社の業務を執行するほかはない。

凡そ、株式会社においては、会社の機関として、株主総会、取締役会、代表取締役、監査役が設けられており、会社のあらゆる業務は、これらの機関によつて運営される。しかも、これらの機関はそのいずれか一つが欠けても、法律上、会社に営業活動を続けることができなくなるのである。

もつとも、被告においても、現実には、商法の予定する実体をそなえない会社があり、実質的には、特定の個人が会社のあらゆる事項を処理している場合のあることを否定するわけではない。そして、このような会社であつても、直ちに、かゝる会社は有機的組織体としての実体をもたないものとしてその法人格を否定すべきものでもないが、これを法人格をそなえた会社として考える以上は、商法で予定されている各種機関がそれぞれ委ねられた事項を自己の責任で処理しており、その処理の一方法として、自己の責任において、特定の個人にその処理を一任している関係にあるとみるほかない。すなわち、このような会社であつても、特定の個人の行為は、すべて、各機関の存在を前提とし、これら機関からの授権があつて始めてなしうるのであり、これら機関は単なる形式のものにとどまらず、このような実質的意義を有するものである。

これを本件について考えると、証人山尾義幸、同家村鉄夫、同浪花正孝は、いずれも、浪花正孝が事実上原告会社の日常の業務執行全般にわたつて恰も代表取締役のように振舞つていた旨証言しているが、右浪花正孝は、法律上は原告会社の取締役ではなく単なる使用人に過ぎないのであるから、組織法上の固有の地位にもとづいて会社の業務を執行していたとみることはできず、取締役から、本来取締役か執行すべき事項の処理を委ねられて、これを執行していたと解するほかはない。このことは原告会社がもともと浪花正孝が実質上個人で設立したものであり、同人が原告会社に対して事実上完全な支配力をもつているために、取締役が自発的に浪花に対し日常の業務執行を委任したものではなく、単にこれを黙認しているに過ぎない場合でも、何ら変るところはない。この場合においても、取締役の業務執行と職務自体は何ら否定されるものではないのである。のみならず、山尾義幸、家村鉄夫の両名は、原告会社の設立当初から取締役に就任しており、しかも常務取締役の地位にある。

以上のとおりであるから、たとえ、訴外浪花正孝が原告会社を支配していたとしても、訴外山尾義幸、同家村鉄夫を単なる名目上の取締役に過ぎないということはできず、これに対して支給した賞与を損金に算入することはできないのである。従つて原告の本訴請求は失当である。

と述べた。

(立証省略)

理由

原告は、昭和三二年九月三〇日被告に対し、原告の同三一年八月一日から同三二年七月三一日までの事業年度の所得金を六二四、〇六八円とする確定申告をしたところ、被告は同年一二月二五日右確定申告額を金八一三、八六八円と更正する決定をしたので、原告は同三三年一月二二日被告に対し再調査の請求をなし、右再調査の請求は審査請求とみなされ、同年八月二九日大阪国税局長は(1)、賞与を支給された役員は会社の重要な取締役である、(2)、退職金を支給されたという役員は期末にはまだ退職しておらないとの理由を以て、これを棄却する旨の審査決定をなし、原告は即日その旨の通知を受領したこと、並びに、右(2)の点について、退職金を支給されたという役員は期末にはまだ退職していなかつたことに帰するから、退職金は仮払金であつて、これは損金に計上できないもので、被告のなした更正決定の更正差額のうち、この点に関する右決定部分が正当であることについては当事者間に争がない。

ところで、原告は、右決定理由(1)の点につき、訴外山尾義幸及び同家村鉄夫はそれぞれ原告会社の取締役として登記されているけれども、それは名目だけのことで、実際は普通の従業員であつて、これに対し支給した賞与金合計一三九、八〇〇円は当然損金に算入されるべきで、被告が右訴外人らを以て会社の重要な役員であると認め、これに対し支給した賞与を益金に算入すべきものとしたのは違法である旨主張し、被告は、法人がその役員に対して支払う賞与は、当該事業年度損益計算後の利益金の中からの利益処分たるべきものであるから、これを損金に算入することは許されないのであつて、原告会社の日常の業務執行全般にわたつて恰も代表取締役のように振舞つていた訴外浪花正孝は、法律上は原告会社の取締役ではなく、単なる使用人にすぎないのであるから組織法上の固有の地位にもとづいて会社の業務を執行していたとみることはできず、取締役から、本来取締役が執行すべき事項の処理を委ねられて、これを執行していたと解するほかなく、このことは、日常の業務執行を委任せず単にこれを黙認しているに過ぎない場合でも何ら変らないから、取締役の業務執行という職務自体は何ら否定されるものではないのみならず、訴外山尾義幸並びに同家村鉄夫は原告会社の設立当初から取締役で、しかも、原告主張の事業年度には右両名はいずれも常務取締役であるから被告のなした更正決定に違法はない旨抗争するので、この点を判断することとする。

原告が、その主張の事業年度に訴外山尾義幸、同家村鉄夫に合計金一三九、八〇〇円の賞与を支払つたことについては当事者間に争なく、成立に争ない甲第二、第三号証、乙第一号証及び証人山尾義幸、同家村鉄夫、同浪花正孝の各証言を併せ考えると、右訴外両名は原告会社設立以来それぞれ会社の取締役として登記されており、原告主張の事業年度の第一期決算報告書には常務取締役としてそれぞれ記載されているが、役員とは名義上のみのことであつて、その職務、業務内容は一般の従業員(店員)と何ら異らないもので、実質上は両名とも原告会社の従業員たる使用人であること、右両名の給与は金額の点や支払時期の点でも一般の従業員と何ら異らないもので、毎月の給料の他には定期的に六月と一二月の年二回にそれぞれいわゆるボーナスを支給されていること、右両名は原告会社に印をかして会社の登記書類を作る便宜を与えたことはあるが、自らは取締役として行動したり、自ら業務担当の役員として事務を処理したことや、取締役会に出席したこともないこと、そして、右両名は原告会社の従業員として取扱われ、その給料並びに年二回の賞与は従業員としての給与として支払われていること、原告会社においては原告主張の事業年度当時、代表取締役は訴外三輪義輝であつたが、同人は病気のため会社の業務には全く従事せず、原告会社の使用人である訴外浪花正孝が独裁的に会社の役員の業務を執行しており、原告会社の実際の業務一切の運営は同訴外人によつて行われていたこと、原告会社においては取締役会などは一度も開かれていないこと、原告会社においては、法人税法に関する国税庁の基本通達二六八に規定している、いわゆる「法人が定款により定めた金額をこえて役員に報酬を支給した場合のそのこえる金額は、これを利益処分による賞与とする」との規定の右基準金額は四、〇〇〇、〇〇〇円であるが、前記事業年度において原告会社が全従業員に対して給料手当として支払つた金額でさえ四、〇〇〇〇、〇〇〇円以下であり、この支払金のうちには訴外山尾義幸、同家村鉄夫、同浪花正孝の各月の給料や年二回の賞与が含まれていること、並びに、前記代表取締三輪義輝社長には給料など支払つていないし、その他原告会社において支払つた役員の報酬はないことがいずれも認められる。

そうすると、訴外山尾義幸、同家村鉄夫の両名はいずれも名義上は取締役で、原告会社の役員となつているが、その実質はいずれも原告会社の従業員たる使用人であつて、原告主張の事業年度にはいずれもいわゆる使用人兼役員であると認められ、しかも前認定のとおり右事業年度において右山尾、家村に支給された給料並びに賞与はいずれも使用人のそれとして支払われていたことが窺われるから、原告主張の賞与合計金一三九、八〇〇円は一般使用人に対する給与と同様、右事業年度の損金に計上せられるべきものであると解するのが相当である。

尤も、被告は会社の代表取締役が病気で執務できず、実際の実力者である一般使用人の一人が会社役員の業務を執行している場合には、名義上のみの取締役は自らの役員たる業務を右代行者に委任したと同一に考えられるから、名目上のみの取締役も会社役員として業務執行をしていることとなる旨主張するが、凡そ、会社の役員がその業務の執行をなしても、必ずこれに報酬を支払わねばならないものではなく、また前判旨のとおり、役員兼使用人として業務に従事する者に対する報酬は、役員としての業務の報酬と使用人としてのそれとに区別して取扱うのが相当であると解されるところ、前認定のとおり、本件にあつては、三輪社長には報酬は支払われていないし、訴外山尾、同家村に支払われた賞与はいずれも使用人のそれとして支払われたものであり、実質上も役員としての報酬を受けた役員はいないのであるから、被告の右主張は失当であり、その他原告主張の金一三九、八〇〇円を否認するにつき被告において特段の主張立証のない本件にあつては、原告主張の金一三九、八〇〇円の賞与金は原告主張の事業年度の損金として計上されるべきものといわねばならない。

以上のとおりであるから、原告会社の昭和三一年八月一日から同三二年七月三一日までの事業年度の所得金額は原告会社が所得と認めて確定申告した六二四、〇六八円に前記退職役員に支給したと称する退職金五〇、〇〇〇円(右退職金が五〇、〇〇〇円であることは弁論の全趣旨により当事者間に争がないものと認める。)を加算した金六七四、〇六八円とすべきであつて、被告がなした更正決定額金八一三、八六八円中右金額を超ゆる部分は違法な処分として取消を免れない。

よつて、被告の本件処分のうち、金六七四、〇六八円を超える部分の取消を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江菊之助 白井美則 弓削孟)

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